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酒井抱一の「綺麗さび」の世界(三) [酒井抱一]

その三 「白梅図」(抱一筆)

扇面雑画一・白梅図.jpg

酒井抱一筆「扇面雑画(一)・白梅図」(「扇面雑画(六十面)の一面」)
紙本着色・墨画 三六・五×六三・八㎝(各面) 東京国立博物館蔵

https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0095262

【 各種の画題を描いたこの六十面に及ぶ抱一の扇面画は、現在ガラス挟みの形式で保存されているが、それ以前の保管状態が好ましくなかったためか、画面がかなり傷んで画趣を殺いでいるものが少なくない。六十面の内訳は着色による草花・花木を描くものが約半数を占め、他は鳥類、動物、魚類、昆虫、また蔬菜、器物、盆栽、景物、さらに水墨の竹や山水、布袋など、題材、手法が多岐に及んでいる。花鳥画を最も得意としながら、画題の対象を新たに開拓、拡大していった抱一画業の特色がよく表われており、その縮図を見るようである。
 落款は六十面とも「抱一筆」であるが、印章は「鶯邨」朱文(上下)印(二十)、「文詮」朱文円印(十九)、「抱一」朱文重郭方印(十四)、「抱一」朱文方印(六)、「文詮」朱文瓢印(一)と五種が用いられている。 】(『琳派五・総合(紫紅社刊)』所収「作品解説(村重寧稿)」)

 上記のアドレスの抱一筆「扇面雑画」(六十面・東京国立博物館蔵)の中に、抱一の「綺麗さび」の世界の一つひとつが集約されているような思いが湧いてくる。
上記のアドレスでは、この「扇面雑画」(六十面)の全ては掲載されていないようであるが、その画題名(六十面)を記すと、次のとおりである。

(草花・花木など)
一 白梅 二 桜 三 桃 四 柳 五 早蕨 六 蕨と蒲公英 七 菜の花に蝶 八 桜草 九 藤 十 鉄線 十一 水草にあめんぼう 十二 沢瀉 十三 河骨と太蘭 十四 布袋葵 十五 枇杷 十六 蘭 十七 酸漿 十八 露草 十九 撫子 二十 山帰来 二十一 芒と嫁菜 二十二 萩 二十三 烏瓜 二十四 柿 二十五 吹寄 二十六 
雪中藪柑子 二十七 若松と藪柑子 二十八 譲葉 二十九 水仙 三十 墨竹

(蔬菜・虫類・魚類・鳥類・動物など)
三十一 瓜に飛蝗 三十二 生姜 三十三 茄子に蟋蟀 三十㈣ 結び椎茸 三十五 豆と藁苞 三十六 大根に河豚 三十七 瓜草に雲雀 三十八 鷭 三十九 稲穂に雀 四十 枯蓮に白鷺 四十一 蝶と猫 四十二 鹿 四十三 目高 四十四 蝸牛 

(山水・景物など) 
四十五 藁屋根に夕顔 四十六 浜松 四十七 蓬莱山 四十八 秋景山水 四十九 田園風景 五十 雨中山水 五十一 破墨山水 五十二 社頭風景   

(風物・器具・吉祥など)
五十三 ごまめと水引 五十四 鶯笛と若菜 五十五 盆栽 五十六 稗蒔 五十七 玩具 五十八 五徳と羽根箒 五十九 籠に雪紅葉 六十 布袋

 (上記の「画題名・分類」などは、『琳派五 総合(紫紅社)』所収「作品解説」などを参考にしている。)

 抱一には、画帖として、『絵手鑑』(七十二図・各二五・一×一九・九㎝・静嘉堂文庫美術館蔵)がある。その『絵手鑑』の画題名と、この「扇面雑画」の画題名と比較して見ると、例えば、前者の、「一 白梅 二 椎を喰む鼠 三 向日葵に百足 四 寒山拾得 五 羽子板に羽根 六 虎 七 龍 八 南瓜 九 釣人 十 南瓜 ----- 」と、随分と様変わりをしている。このトップの「白梅図」は、同じ画題名であるが、前者が、、「晴(ハレ)」の晴れ着的な作品とすると、後者の「扇面雑画」の方は、「褻(ケ)」の普段着の即興的な作品のような印象を受ける。
 もう一つ、抱一には、「晴(ハレ)と褻(ケ)」の中間のような、俳画集(俳画帖)ともいうべき『柳花帖』(五十六丁・五十二図)がある。これは抱一の親しい吉原の楼主加保茶元成(二世)の依頼により、雨華庵などの画室ではなく吉原の一室で描いたとの抱一の跋文が付いている。
この『柳花帖』については、下記のアドレスで触れている。その画題名と俳句などについて、再掲をして置きたい。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-03-23

(再掲)

酒井抱一俳画集『柳花帖』(一帖 文政二年=一八一九 姫路市立美術館蔵=池田成彬旧蔵)の俳句(発句一覧)
(『酒井抱一と江戸琳派の全貌(松尾知子・岡野智子編)』所収「酒井抱一筆「柳花帖」俳句一覧(岡野智子稿)」) ※=「鶯邨画譜」・その他関連図(未完、逐次、修正補完など) ※※=『屠龍之技』に収載されている句(「前書き」など)

  (画題)      (漢詩・発句=俳句)
1 月に白梅図   暗香浮動月黄昏(巻頭のみ一行詩) 抱一寫併題  ※四「月に梅」
2 白椿図     沽(うる)めやも花屋の室かたまつはき
3 桜図      是やこの花も美人も遠くより ※「八重桜・糸桜に短冊図屏風」
4 白酒図     夜さくらに弥生の雪や雛の柵
5 団子に蓮華図  一刻のあたひ千金はなのミち
6 柳図      さけ鰒(ふぐ)のやなきも春のけしきかな※「河豚に烏賊図」(『手鑑帖』)
7 ほととぎす図  寶(ほ)とゝきすたゝ有明のかゝみたて
8 蝙蝠図     かはほりの名に蚊をりうや持扇  ※「蝙蝠図」(『手鑑帖』)
9 朝顔図     朝かほや手をかしてやるもつれ糸  ※「月次図」(六月)
10 氷室図    長なかと出して氷室の返事かな
11 梨図     園にはや蜂を追ふなり梨子畠   ※二十一「梨」
12 水鶏図    門と扣く一□筥とくゐなかな   
13 露草図    月前のはなも田毎のさかりかな
14 浴衣図    紫陽花や田の字つくしの濡衣 (『屠龍之技』)の「江戸節一曲をきゝて」
15 名月図    名月やハ聲の鶏の咽のうち
16 素麺図      素麺にわたせる箸や天のかは
17 紫式部図    名月やすゝりの海も外ならす   ※※十一「紫式部」
18 菊図      いとのなき三味線ゆかし菊の宿  ※二十三「流水に菊」 
19 山中の鹿図   なく山のすかたもみへす夜の鹿  ※二十「紅葉に鹿」
20 田踊り図     稲の波返て四海のしつかなり
21 葵図       祭見や桟敷をおもひかけあふひ  ※「立葵図」
22 芥子図      (維摩経を読て) 解脱して魔界崩るゝ芥子の花
23 女郎花図     (青倭艸市)   市分てものいふはなや女郎花
24 初茸に茄子図    初茸や莟はかりの小紫
25 紅葉図       山紅葉照るや二王の口の中
26 雪山図       つもるほと雪にはつかし軒の煤
27 松図        晴れてまたしくるゝ春や軒の松  「州浜に松・鶴亀図」   
28 雪竹図       雪折れのすゝめ有りけり園の竹  
29 ハ頭図      西の日や数の寶を鷲つかみ   「波図屏風」など
30 今戸の瓦焼図    古かねのこまの雙うし讃戯画   
            瓦焼く松の匂ひやはるの雨 ※※抱一筆「隅田川窯場図屏風」 
31 山の桜図      花ひらの山を動かすさくらかな  「桜図屏風」
  蝶図        飛ふ蝶を喰わんとしたる牡丹かな      
32 扇図        居眠りを立派にさせる扇かな
  達磨図       石菖(せきしょう)や尻も腐らす石のうへ
33 花火図       星ひとり残して落ちる花火かな
  夏雲図       翌(あす)もまた越る暑さや雲の峯
34 房楊枝図    はつ秋や漱(うがい)茶碗にかねの音 ※其一筆「文読む遊女図」(抱一賛)
  落雁図       いまおりる雁は小梅か柳しま
35 月に女郎花図    野路や空月の中なる女郎花 
36 雪中水仙図     湯豆腐のあわたゝしさよ今朝の雪  ※※「後朝」は
37 虫籠に露草図    もれ出る籠のほたるや夜這星
38 燕子花にほととぎす図  ほとときすなくやうす雲濃むらさき 「八橋図屏風」
39 雪中鷺図      片足はちろり下ケたろ雪の鷺 
40 山中鹿図      鳴く山の姿もミヘつ夜の鹿
41 雨中鶯図      タ立の今降るかたや鷺一羽 
42 白梅に羽図     鳥さしの手際見せけり梅はやし 
43 萩図        笠脱て皆持たせけり萩もどり
44 初雁図       初雁や一筆かしくまいらせ候
45 菊図        千世とゆふ酒の銘有きくの宿  ※十五「百合」の
46 鹿図        しかの飛あしたの原や廿日月  ※「秋郊双鹿図」
47 瓦灯図       啼鹿の姿も見へつ夜半の聲
48 蛙に桜図      宵闇や水なき池になくかわつ
49 団扇図       温泉(ゆ)に立ちし人の噂や涼台 ※二十二「団扇」
50 合歓木図     長房の楊枝涼しや合歓花 ※其一筆「文読む遊女図」(抱一賛)
51 渡守図       茶の水に花の影くめわたし守  ※抱一筆「隅田川窯場図屏風」
52 落葉図      先(まず)ひと葉秋に捨てたる団扇かな ※二十二「団扇」

 この『柳花帖』(画帖・俳画集)は、「花街柳巷図巻」(一巻・十二図)、そして、「吉原月次図(十二幅)」(旧六曲一双押絵貼屏風)と連動しており、抱一は、この種の、相互に連動している「画帖」形式、「絵巻」形式、「掛幅」形式など、同種の画題で、種々の形式のものを制作している。
 そして、一つひとつは小画面の、この種の「画帖」形式や「絵巻」形式のものは、抱一自筆の、門弟・其一など他の人の手が入ってないものが多く、冒頭に掲げた「扇面雑画」(「白梅図」など六十図)なども、これまてに見てきた『絵手鑑』や『柳花帖』、そして、「四季花鳥図絵巻」などと均しく、抱一の細やかな息吹きのする自筆そのものの「綺麗さび」の世界のものという印象を深くする。
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